Project-Tig

右手にトーチ 左手に期待値を

コレラク!頑固なアルミ溶接は強電流で

アルミの溶接は難しい

 

今となっては「コツを掴めばそんなに難しくないですよ!」ぐらいは言えるようになったのですが、始めのうちはアルミの特性に正直戸惑いました。

ティグ経験が10年以上とはいえ、アルミ溶接の経験はほとんど無く、腕は大したことありません。 

 

ですので、アルミのプロからすればやり方が違うと感じたり、ネットで調べれば諸先輩方のとっても上手な溶接写真が出てきますので、それに比べると本当に全っ然大したことはありませんが、自分なりに感じた事をお伝えできればと思ってます。

 

是非ともアルミ溶接を考えられている初心者の方の参考になれば幸いです。

1.溶接棒が玉になる

まず一番最初に起きた問題がこれです。大抵の方は最初にこの現象で行き詰むのではないのでしょうか?

 

溶接棒を入れようとすると、溶接棒がダマになるだけで母材に溶け込んでいきません。

 

強引に溶接棒を入れても、ダマになった溶接棒が上に乗っているだけで、とてもではありませんが溶接できているとは思えません。

アルミ溶接棒が玉になる

これは母材が溶けていない(プールが出来ていない)にもかかわらず、溶接棒を入れてしまったことが原因でした。

板厚6㎜なら、150Aの電流ではなかなか溶けてくれません。

 

なので、初期電流を200Aまで上げます
注)板厚6㎜の場合 

しばらくアークを出したまま10秒程キープして、母材が溶けたのを確認できてから、溶けたプールに溶接棒を入れることで解決できました。

 

10秒は結構長い、、、

 

溶接中のコツとしては、アルミの溶接棒はタングステンから放電しているアークにあたるとすぐに溶けてしまうため、溶接棒はできるだけ寝かせて、プールに真横からスムーズに入れる感じです。

 

トーチを立てすぎると、ジジッという音と共にタングステンがプールに接触します。反対にトーチを寝かせ過ぎるとアークが溶接棒に当たりやすくなってしまうので、そういった場合は丁度いいトーチの角度を探すのに苦労しました。

 

アルミ最大の特徴として、表面を覆っている酸化被膜がめっちゃ強いが挙げられますが、この酸化被膜は2000℃以上の熱でようやく破壊することができるそうです。

 

一方、アルミの融点は約700℃と、酸化被膜よりもかなり低い(表面の方が融点低いのって変ですね)ので!初期電流を200Aまで上げ、10秒キープでやっとこさ酸化被膜を破壊することにより、溶け込みが良くなりスムーズに進めることが出来ました。

2.溶接の幅が揃わない

次に起きた問題がコレです。

前半はいいものの、後半になるとどんどんビードが広くなってしまって、最終的に穴が空いてしまうという…

アルミ溶接コツ

これはしばらく練習しているうちに、なるほどなと思いました。

アルミは熱が伝わり易いため、母材全体に熱が逃げていき、最初はなかなか溶けてくれません。

ですのでしばらくアークを当てて、母材が溶け始めてから溶接棒を入れる訳なんですが、特に上の写真のような小さい物(タバコぐらいの大きさです)の場合、溶接を半分ぐらいまでした頃には、母材はアツアツになっちゃっています。

 

そうなってくると、アルミ自体の融点は低いため、熱がこもってくると耐えきれずに一気に溶け広がる訳です。

 

これの対策は、ネット上で拾った裏技的なやり方で解決出来ました。とはいっても始めに紹介した初期電流を200Aに設定すると似たようなものなんですが、

 

ティグ溶接機は、
《トーチスイッチ押すと初期電流→スイッチ離すと溶接電流》
といった感じで電流値が切り替わります。

 

通常、初期電流は低めに設定して、溶接電流で本溶接をするのですが、
《初期電流:高い電流値→溶接電流:低めの電流値》

と設定することで、母材が冷めている前半は初期電流(電流高め)、溶けるようになってきたら溶接電流(電流低め)と、2パターンの電流値をアークを途切れさせる事無く使い分ける事ができます。

ある程度溶接に慣れてきたら、このやり方がベターでいいと思います。

 

それまでは、一定の距離を溶接したら一旦アークを切って、他の箇所を溶接している間に冷めてから、再度溶接を再開するのが無難です。

 

ただし、溶接棒の送りがしっかり出来ていないと大変です。

 

溶接機の設定などももちろん大事なんですが、アルミは溶接棒を沢山使います!

何でかはわかりませんが、鉄やステンと比べて、倍ぐらい溶接棒を使う感じです。なので、溶接棒は2㎜程度がオススメです。

それでも、溶接の終端に差し掛かった頃には、トーチの送りを速めてその分溶接棒もガンガン入れていく必要があります。間に合わないと、ぽっかりと穴が空いてしまいます。

 

こちらの記事では溶接棒をスピーディーに送ってもブレる事無い、正確な手技をまとめてます。

3.タングステンが丸くなる

これは、アルミを交流で溶接すると、どうしてもタングステンに熱が入るので、ある程度はやむを得ないことです。

半球状に先端が丸くなるのは正常です。

 

アルミ溶接で使用するのは純タングステン。 

プールに突っ込んだり、溶棒が接触し飛び散るとこうなります。

アルミ溶接タングステン

短絡して母材から無理やり取ろうとして曲がったタングステン
時々やっちゃいます

 

そして、めっちゃ折れやすい。

冷めてるタングステンを、ちょい落としただけでもポッキリ。

 

交流ではタングステンも赤熱するぐらい熱が入りますので、タングステンを冷やしつつシールドする意味でもアルゴンはケチらず出しましょう!

目安として練習で6-8L、キレイに仕上げたい場合は10L以上は出すようにしてます。

 

アルミはビードが一度汚くなると黒い斑点が入ったりして、修正できないんですよね…なので、極力失敗する要因を除外する目的で、遠慮なくガス出します(細かい事言わずさせてくれる、いい会社です笑)。

 

アルミの場合、タングステンと母材/溶接棒の軽いタッチでも、すぐにタングステンに母材が乗り移ってしまい、ダメになります。

母材に乗り移った瞬間、アークがおかしなことになり、母材が焦げたような感じ?になります。

こうなってしまったらタングステンを研ぎ直すしか無いと思われます。 

4.溶接箇所が汚くなってしまう

原因は色々あるのですが、試しに溶接した感じこのような結果になりました。

アルミ溶接ビードが汚い

 ガス不足
 通常
 棒とタングステンの接触

 

は光沢もあり、問題なく溶接できています。

 

の黒いすすは、溶接棒とアークの接触で、一度接触してしまうとタングステンがダメになってしまい、そのまま溶接しても全然上手くいきません。  

溶接に慣れていない場合は、何度もタングステンを母材に突っ込んでしまい、頻繁に先端を削らないといけないので、正直これが面倒です。

ダメになった場合は、先端と先端から1~2㎝程の表面を研磨して、捨て板にアークを出すといい感じで勝手に丸くなってくれますので、私はそうしてました。

 

のアルゴンガス不足に関しては、アルゴンガスを3L/minで溶接したものです。

参考までにアルゴンガス流量を変えた溶接がこちら。 

アルミ溶接アルゴンガス流量の関係

無風状態でも15L、10Lでは問題ありませんが、5L以下になると黒い斑点が出てきます。

5.クレータがくぼむ

溶接終わりでかなりくぼんでしまいました。

アルミ溶接クレータ処理

溶け落ち、、、


ダウンスロープを1秒→2秒に、クレータフィラ電流を30A→40Aにセッティングし直してみると、ややフラット気味に。

アルミ溶接クレータ処理

 

一旦アークを切ってから棒を送る方法もありますが、悩んだあげく思いきってダウンスロープの最中にも棒を送ることによってようやく解消出来ました。

棒の送りに忙しいアルミ溶接です。 

6.溶接ビードが白くなる

こちらが主な原因。

  • ガス不足
  • クリーニング幅を「広い」に調整
  • 入熱量の過多

 

アルミ溶接白くなる

どうにかして光沢のあるビードにしたいのですが、入熱量の多いスミ肉では真っ白くなってしまいます。

品質的には問題ありませんが、この解決策は今も模索中なので、わかり次第こちらの記事で追記したいと思います。 

7.クリーニング幅の狭い広い

アルミ溶接クリーニング幅

 

標準のままでも平付けでは問題なく溶接出来ましたが、試しに「狭」、「広」で溶接してみるとこのようになりました。

アルミ溶接クリーニング幅

「狭」にダイヤルを合わせるほど、ビード周辺の白い面積が狭くなり余盛りが大きくなりました。

「広」にダイヤルを合わせるほど、ビード周辺の白い面積が広くなり、ペタっとしたビードになります。 

アルミ溶接クリーニング幅
アルミ溶接クリーニング幅

 クリーニング幅を広げすぎるとタングステンの消耗が激しくなり、研磨頻度が上がってしまいます。

 

ステンレスの溶接ではタングステンの研磨角度でアークの幅を変えられましたが、アルミではタングステンの先端が丸くなるのでそうもいきません。

本来の用途、目的とは異なるかもしれませんが、一例として紹介しておきます。

8.ビードが綺麗にならない 

ビードがモコモコするのは電流不足です。電流を思いっきり強くして溶接すると、ペタッとしたビードになります。

アルミ溶接

板厚6㎜、溶接電流220A、Φ2.4で巻いてます。

 

9.アフターフローは5秒以上に設定 

2022.6.19追記

タングステンが汚れると、溶接ビードが綺麗にならないことはお伝えしましたが、汚れの原因として、アフターフローのガス不足が挙げられます。

アルミ溶接アフターフローのガス不足によるタングステンの酸化

交流溶接で200Aを超えた溶接直後は、タングステンが真っ赤になり、冷えるまで数秒要します。その間にアルゴンガスで保護しないと、タングステンの酸化により、その後の溶接に悪影響を及ぼします。

設定は以下の通り。

 

コントロールパネルの「アフターフロー」のダイヤルを、

ティグ溶接機アフターフロー

 

4.0付近に設定します。

ティグ溶接機アフターフロー

これで溶接後に約10秒ほどアルゴンガスが出続けるので、タングステンが綺麗な状態を維持できます。

 

アルミ溶接タングステン

アルミ溶接でスターと直後に「ボフッ」と音がしたら、タングステンの酸化が原因と思われるので、アフターフローを調整してみてください。

 

最後に、簡単にまとめると 

  • タングステンはキレイな状態をキープ!
  • ガスはケチらず出す!
  • 溶接開始時はプールが出来るまでじっと我慢する!
  • 溶接棒は極力母材と平行な角度から、這わせるようにプールに素早く入れる!
  • 電流設定は熱が入った後半の事も考えて設定する!
  • 棒の送りはひたすら練習!

あと、当たり前ですが、母材はキレイな状態で溶接しないとダメです。塗装や油分は厳禁です。

 

5つのポイントと紹介しつつ、多くなってしまいました。それだけアルミ溶接は奥が深いのかもしれません。

まだまだ勉強なう。
ではでは、より良い溶接ライフを! 

 

blog.sus-metal.com