ティグ溶接、半自動溶接、被覆アーク溶接を含む溶接を全てアーク溶接と呼びます。
アーク溶接とは?
アークは電気の放電現象で、数千℃から2万℃もの高温になります。
アーク熱により溶接金属が溶融し、大気にさらされると酸素や窒素の侵入を受けるので、健全な溶接金属が得られなくなります。
アークや溶融池を大気から保護、遮断(シールド)する必要があるのはこのためで、シールド材として、ガスシールドアーク溶接ではアルゴンや炭酸ガスを、被覆アーク溶接では被覆材から発生するガスやスラグを用いています。
アーク溶接は
- 電極自身が消耗する溶極式
- 電極自身が消耗せずに外から溶加材を加える非溶極式
に分類されます。
- 被覆アーク溶接
- ガスシールドアーク溶接
- サブマージアーク溶接
- セルフシールドアーク溶接
さらにガスシールドアーク溶接はシールドガスの種類によって
- 炭酸ガスアーク溶接
- ミグ溶接
- マグ溶接
- エレクトロガスアーク溶接
に分けられます。
- TIG(ティグ)溶接
- プラズマ溶接
そして、ここからは一般的に使用されている
- 被覆アーク溶接(溶極式)
- 炭酸ガスアーク溶接(溶極式)
- TIG溶接(非溶極式)
の特徴を、簡単に記載します。
尚、記載してる内容はステンレス鋼における溶接の要点です。
被覆アーク溶接とは
溶接の特徴
溶接棒をホルダに挟むだけで全姿勢の溶接が可能で、薄板から厚板まで広い範囲に適用可能です。
肉盛り溶接の溶接速度は炭酸ガスアーク溶接に及ばないが、多少の風雨では作業性が低下しないため、屋外の作業に適しています。
比較的設備費が安く、使い勝手も容易。
溶接棒の乾燥
ステンレス鋼被覆アーク溶接棒はプラスチックの容器に入っており、長期間保存可能だが、一度開封し長時間放置すると湿気により溶接作業性が低下するため、吸湿した場合は使用前に乾燥させなければなりません。乾燥時間が長すぎると被覆材に亀裂、変色が生じるので、メーカー推奨の乾燥時間に従うこと。
溶接作業の要点
ステンレス鋼は炭素鋼*1に比べて 電気抵抗が大きく、溶接電流により溶接棒の心線が過熱しやすい。そのため、溶接電流が高いと棒焼けを起こし、溶接作業が低下する。
同じ棒径の炭素鋼被覆アーク溶接棒に比べて10~20%低い電流を使用するのが良い。
溶接中はアーク長を出来るだけ短くするように運棒する。
ウィービング*2する場合は棒径の2.5倍以下にする必要がある。
ステンレス鋼の融点は1400~1450℃程度で、炭素鋼の融点1530℃程度に比べて低い。そのため、立向きや上向き溶接ではビードが垂れて凸型になりやすい。溶け込み不良などの溶接欠陥を防ぐには、かなりの技量が必要です。
棒焼けの原因をまとめました ⇩
炭酸ガスアーク溶接とは
溶接の特徴
「半自動」、「炭酸」、「CO2」などの呼び方があるが、正式には炭酸ガスアーク溶接。ガスシールドアーク溶接の一種で、電極にフラックス入りワイヤを、シールドガスに炭酸ガスを使用する溶接法。
溶接設備は、直流電源、ワイヤ送給装置、炭酸ガス(ボンベ等)、トーチなどが必要で、被覆アーク溶接より取り扱いがやや煩雑になる。
フラックス入りワイヤを使用する炭酸ガスアーク溶接は、被覆アーク溶接に比べて溶接速度が格段に速く、高能率な溶接施工が可能。
フラックス入りワイヤ
炭酸ガスアーク溶接に使用するステンレス鋼フラックス入りワイヤは、金属外皮の中にフラックスを充填したもの。
フラックスは被覆アーク溶接棒と同様、スラグ形成剤、アーク安定剤、クロム【Cr】、ニッケル【Ni】、モリブデン【Mo】などの合成剤の粉末からなっている。 合成材の種類や量を変えて、316、309など種々のワイヤを製造している。
ステンレス鋼フラックス入りワイヤの最大の特徴は、シールドガスに炭酸ガスを使用しても、ステンレス鋼に必要な低炭素の溶着金属が得られることである。
- ソリッドワイヤでは、わずかな炭酸ガスの添加で溶着金属の炭素量が増加する。
- フラックス入りワイヤではワイヤに含有されているスラグの働きにより、炭素量の増加が抑えられる。
シールドガス流量
炭酸ガスアーク溶接では、シールドガス流量が不十分であるとブローホールなどの欠陥が発生します。又、流量が多すぎても乱流となりシールド不良を起こしやすいので、シールドガス流量は、Φ1.2mmワイヤで20~25l/minが適正です。
シールド効果は風の影響を受けると低下してしまい、風速1~2m/secを超えるとブローホールが発生しやすくなるので、つい立てなどの防風対策が必要です。
前進法と後退法
【前進法】
前進法では溶接線が見やすく比較的平坦なビードが得られ、溶け込みが浅くなる。
【後退法】
後退法では余盛高さがやや高くなるが、スパッタが少なめになり溶け込みが深くなる。
トーチ角度は使用状況によって異なりますが、前進法、後進法ともに通常は10~20°程度が適当です。
TIG溶接とは?
溶接の特徴
TIG(ティグ)溶接は、タングステン電極を使って母材との間にアークを発生させる溶接法。シールドガスにはアルゴンなどの不活性ガスを使用し、溶加(棒及びワイヤ)を加える場合と加えない場合とがある。
数十Aから数百Aの広い範囲で極めて安定したアークを得ることが出来るため、極薄板から厚板まで幅広く溶接を行える。
溶接電流と溶加材の供給量を別々に調整できるので、溶接姿勢や開先形状に応じた最適の条件を選ぶことができ、全姿勢溶接に最も適している。また、突合わせ継ぎ手において安定した裏波ビードが得られるので、パイプなどの外側からしか溶接できない場合にも適している。
TIG溶接は滑らかで光沢のあるビードが特徴的であるが、これはシールドガスに不活性ガスだけを使うためである。溶接金属の清浄度が高く、耐食性や靭性にも優れている。又、融合不良やブローホールなどの溶接欠陥も発生しにくく、各種溶接法の中で最も高品質な溶接結果が得られる。
その反面、溶加棒を手送りで供給する手動溶接は、被覆アーク溶接より溶着速度が低く能率では劣っている。
【シールドガス流量】
ステンレス鋼のティグ溶接において、シールドガスは一般にアルゴンを使用する。シールドガス流量は多すぎてもシールドを乱す。
- 100A~200Aで7~12ℓ/min
- 200A~300Aで12~15ℓ/min
が適正である。
タングステン
タングステン電極棒は、純タングステン電極棒と1~2%のトリア(酸化トリウム)を含有するトリアタングステン電極棒(トリタン)などがある。
ステンレスのティグ溶接では、アークスタートが容易で使用電流範囲が広いトリタンが主に使われている。極性は、深い溶け込みが得られる電極マイナスを用いる。
電極にはΦ0.5~10.0mmがあり、使用する溶接電流に合わせて一般的に次のように径を選んでます。
- 電極Φ1.6mmで70~150A
- 電極Φ2.4mmで150~250A
- 電極Φ3.2mmで250~400A
タングステン先端の角度30°の場合、アークの範囲は広がり、溶け込みが浅い。
タングステン先端の角度50°の場合、アークの範囲は狭まり、溶け込みが深くなる。