溶接用語で「開先」って聞くと、何となく意味が薄くて、単にめんどくさい工程が一つ増えるんじゃないの?と思ってる方がいるかもしれません。
これって実は、熟練のベテラン職人でもそう感じてる人がいて、「開先」の重要性って、溶け込みが良好になるだけでしょ? とか、普通に突合わせ(開先無し)で溶接しても一緒でしょ、と思っている職人が結構いるんですよ。
ちょっと待って~!ください、なのです。
鉄骨の溶接は開先を設けて溶接されている
街を歩くと目にすることが多い鉄骨による構造物。よく見てみると、鉄骨の構造物ってそのほとんどが開先を設けて溶接していることに気が付きます。例えばこちらの画像。
これは、とある鉄骨構造物の画像です。○のところが開先を設けて溶接した箇所で、何層も溶接が重なってますね。なんとなくミルフィーユみたいな。
このミルフィーユみたいな層が「溶接金属」と呼ばれていて、母材と同程度の強度を持っているんです。
プラスチックでも木材でも、繋ぎ目の強度は一般的に弱いですよね。鋼材も同じで、繋ぎ目ってのは強度が弱くなります。
なので、母材の繋ぎ目に開先を設ける+溶接を重ねて溶接金属を得る=溶接金属が母材と同じ強度を持つ という図式が成り立つわけです。
母材の強度=溶接金属の強度
これが「開先」を設ける本来の目的です。
開先は完全に溶け込んでるの?
開先を設けて溶接すると、強度が得られるってのはわかっていただけたと思いますが、この溶接金属って完全に溶け込んでるの?
と疑ってかからなければなりません。
では、溶接金属が完全に溶け込んでいるのかを確かめるには、どんな方法があるんでしょうか。
一般的に現場で行われるのには、レントゲン検査というものがあり、配管溶接後には多く用いられています。
文字通り、その場でレントゲンを撮り、溶接金属内に空洞等の欠陥が無いか検査することですね。これは、「非破壊試験」と呼ばれるカテゴリーで、対照的な試験に「破壊試験」があります。
「破壊試験」とはその名の通りで、溶接個所の一部分を抜き取り、力を加えて変形させるものです。
例えば、U字型に180度曲げることによって、割れなどの欠陥が無いか検査します。JIS溶接試験で用いられる曲げ試験と呼ばれる検査方法ですね。
割れが無ければ、完全に溶け込んでる溶接ですね~、ということで晴れて合格となります。
「破壊試験」、「非破壊試験」には多くの検査方法があるので、興味のある方は是非一度、調べてみてください。
開先の完全溶け込みを確認する
ここまで紹介してきた「開先」ですが、今度は自分の開先溶接がホントに完全溶け込みになってるの?を知る必要があります。
そのためにJIS溶接試験があるんですね。
開先を設けた鋼材を溶接し、規定の箇所を取り出し、曲げ試験によって合否の判定を行う試験なのですが、バンドソーとプレスがあれば、擬似的に曲げ試験が出来るので、試しにやってみましょう。
溶接ピースを仮付けして、
溶接を完了させて、冷めたらバンドソーで切断します。
切断後は、余盛り部分と裏板をグラインダーでガリガリと。
フラットプレス(シリンダーが下部にあるやつ)で曲げ試験を。
180度曲げてみて、割れが無ければ晴れて完全溶け込みとなります。
開先名称
さてさてさ~て、説明はこの辺にして、ここで一旦、開先の名称をおさらいしましょう。
【ルート間隔(ギャップ)】
【開先角度】
【ルート面】
ローリング溶接の練習は開先有りで
これはTig-Quest05、06で紹介したもので、ローリングが上手くいかずに悩んでる中国人の実習生に、とある方法でローリングさせてみたら、こんなに上手くなりました~っていうやつで、


同じj技術を人物が溶接してるのに、開先の有る無しでこんなに仕上がりに違いが出るんですよね。
開先を設けるのには手間がかかるので、アングルを背中合わせにすることで、溶接個所が開先形状に近い形になるので、溶接中の溶融池形状がめっちゃ見えやすいんです。
このように開先を設けると、溶接者は溶融池が見やすくなります。ローリングの練習をするときは、開先を設けて練習すると効果的です。
最後に
はい。ここまで「開先」についてまとめてきましたが、いかがだったでしょうか?
「開先」というキーワードから、ここまで話を広く膨らませるのは、なかなかに、なかなかじゃないですか?
「開先」が重要って聞いてたけど、なんとなくその意味がわかったような気がする。
と、言っていただければ非常に満足です。
ではではで~は、より良い溶接ライフを!
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溶接未経験での半自動は操作が簡単で覚えやすいのですが、溶融池が見えにくいのが難点でした。そこで誰でも簡単に溶融池を認識できる「角継ぎ手」での練習を推奨しています。