この記事は「ステンレス溶接後の歪みを自身で解消したい」と考えてる人に向けてまとめていす。
歪み取り専門の会社を探してるという方は、「溶接 歪み」で検索するとトップに表示されるので、そちらをご覧ください。
歪(ひず)みとは
溶接で鋼材が高温になり、一旦膨張します。しかし時間の経過とともに冷却され収縮します。
この時、膨張する力と収縮する力が一定であれば歪みは生まれませんが、収縮する力の方が圧倒的に大きいため、溶接後は大きく変形します。この変形を歪みといいます。「溶接箇所は必ず収縮する、縮まる」と覚えておけばOKです。
ステンレスの場合はSS400(一般的な鉄鋼材)に比べると、熱の伝わり方が約3倍ほど遅いので、熱が逃げずにこもりやすく、局部的に高温になります。結果、大きな歪みが生じることとなります。
左は仮付け後、右は溶接後となります。溶接後に「く」の字に変形してるのがわかると思います。
どのくらい変形しているのか、サイズ感がわかりにくいのでハッピーターンを添えてみると、
変形の大きさはハッピーターン約一枚分といったところですね。
この歪みがまた厄介な存在で、あまりに変形が大きいと品質基準を超えてしまい、製品として納めることが出来なくなります。
なので、溶接者は常に歪みをどれだけ少なく溶接出来るか意識し、歪みによる変形を品質基準以下に直す方法を、長年にわたって技術を磨く必要があるわけです。
歪み取りは面白い!
この歪(ひず)みは職人個人の感覚に頼るところが大きく、これといった図面やマニュアルがないので、歪みと聞いただけで難しいって思う人がたくさんいます。しかし、裏を返せば、わからないところを自分の感覚だけで突き詰めていくってところが、これまためちゃくちゃ面白いとこなんです。
この「突き詰めていく」作業、、、 職人ならでは、ですよね。
私の職場は造船所なんですが、とある工場の前で二人組が作業していました。見慣れない光景だなと思ってたら、一人がガストーチでタンクの外側を加熱し、もう一人がホースで水をかけていたんですよ。
聞いたところによると、タンクの溶接で脚長を出しすぎて入熱量が大きくなってしまったらしいんです。要は溶接を太くつけすぎて、外側がベコベコに変形してしまったのをギョウ鉄のプロが直すというものでした。
造船所内とはいえ、ギョウ鉄*1のプロには中々お目にかかれないので、足を止めて作業の様子を見ることに。
均一な熱量。一定のスピード。迷いの無いトーチ運び。定規を当てながら、たちまち数㎜の変形を直していく様に、思わず「おぉ、カッコいい」と見とれてしまいました。
すごいですよね。どこの場所にどれだけ熱を加えればどれだけ歪みが解消するのかイメージ出来てるんですよ。
歪み解消方法
ギョウ鉄のプロの方々には敵わないかもしれませんが、私も物作りの端くれとして、溶接後の歪みの変形を、どうすれば解消できるのか、その方法を長年にわたり感覚を磨いてきたつもりではありますが、結局のところ、溶接による歪みをゼロにすることは不可能です。
もう一度言いますが不可能です!
どのような溶接方法を用いても、「溶接熱で膨張→冷却による収縮」となる以上、歪みをゼロにする方法はありません。
なので、いかに溶接によって生じる歪みを最小限にするのか?といった方法が重要になってきます。
変形を解消するには溶接前、溶接のパス間、溶接後、に分けての解消があります。
溶接前の歪み解消
箇条書きでいきますね。
- 入熱量をできるだけ少なくしながら、溶接スピードを上げる。
- 開先角度はできるだけ小さくして、溶接金属量を少なくする。
- 熱が一ヵ所に集中しないように、溶接の順番を調整する。
- 表側、裏側のすみ肉溶接にて溶接距離が長い場合は、表裏の溶接距離を4:6→6:4のように進み、溶接変形を互いに干渉させ相殺することにより、全体の最終的な変形を少なくする。
- 拘束ジグを使用する。
- ピーニング法…溶接後のパス間、又は溶接後にハンマーで叩く。
- 溶接の方向…タンク等の箱モノでは、リブやスチフナなどの補強材が格子状に広がってついている。全てにおいて中央部分から外側に向かって溶接するのが基本。外から中央に向かって溶接すると、溶接による応力も中央に集まり、過大な変形や残留応力の原因となる
- 逆歪み…溶接後に変形する方向を予測し、その方向にあらかじめ変形しておくこと。
- ギョウ鉄…ガストーチで加熱し、水冷させることにより収縮させて変形を取る。ステンレスでは品質を損なう場合がある。
溶接による歪みの覚え方は簡単
始めから上の項目を全て覚える必要はありません。
①まずは溶接前に定規を当てて隙間が無いのを確認します。
②溶接後、冷めてからどのくらい変形したか定規を当てて確認する。指で触って確認する。
このようにひたすら目で良く見て、手で触って覚えていきます。
いつもながら根気が必要ですね。ええ、職人に必要なのは根気です。一に根気、二に根気。三、四も根気、五も根気。その過程をアレコレ試しながら楽しみながら前に進むわけです。
「モノの見方、良く見る」については過去記事にまとめてあるので、こちらをご一読ください。
*1:簡単に言うと鉄をあぶって水で冷やしながら曲げる技術のこと