今回の内容は、溶接作業時の溶融池(または溶融プール)を安定させるにあたって自宅で出来る簡単なイメージトレーニングとなっております。
溶融池が安定すればビードが綺麗になるのはもちろん、アンダーカットやオーバーラップ等の溶接欠陥にも気付きやすくなります。
この溶融池の安定性。
たった一つで解決できるというものではなく、いくつかの条件を満たさないと溶融池の安定性には繋がらないため、駆け出しの頃の私も眠れないほど随分と悩まされたものです。
ではどのようにすれば溶融池が安定するのでしょうか。簡単なイメージトレーニングの方法があるので簡潔に紹介します。まずは今一度、溶融池とは何かというところから確認していきましょう。
溶融池(ようゆうち)とは?
「溶接中アークなどの熱によってできた溶融金属のたまり」のことです。金属が溶けてドロッとした液体状になっていると思っていただけるとわかりやすいです。
溶融池の流動性を一定に保つ
固体と違って液体状なので、ある方向から力が加わると途端に不安定な状態となり、これが溶接における均一なビードを妨げている原因の一つです。
しかし、いくつかの条件が満たされると液体でも動いていながら安定した状態になります。私はこの安定した状態のことを流動性を一定に保つと呼んでおり、溶融池の安定には欠かせない条件だと考えています。
溶融池を洗面器、トーチ(溶棒)をシャワーに見立てる
準備するものは洗面器とシャワー。
まずは洗面器めがけて最大流量のシャワーをかけ続けます。すると当然洗面器から水が溢れるわけですが、この時に注視していただきたいのが、
①バシャバシャと水滴を撒き散らしなが溢れるのか
②静かな音を立てながら溢れるのか
ということです。
溶融池が安定する条件
冒頭でいくつかの条件を満たさないと溶融池の安定性に繋がらないとお伝えしましたが、以下の項目が溶融池の安定性に繋がる条件だと考えています。
①溶接箇所の不純物の有無
②溶融池からのタングステン先端の距離
③ノズルの角度
④電流の調整
大きく分けて以上の四要素になります。
この四要素をシャワーと洗面器に置き換えてみます。
①溶接箇所の不純物の有無➪洗面器表面の滑らかさ
溶接前に行う準備に母材の清掃が挙げられます。少量でも油分や水分、塗料や錆び等の不純物残っていると、溶融池内の流動性が悪くなり均一なビードが得られません。
②溶融池から電極*1の距離➪水面とシャワーの距離
水面とシャワーの距離が離れすぎると放射状に広がってしまい水面が音を立てて波打ちます。
③ノズルの角度➪シャワーの角度
水面に当たるシャワーの入射角が変われば水面に与える影響も変化します。
④電流の調整➪シャワーの流量
流量が多いほど勢いよく水面を弾き、流量が少ないほど水滴が大きくなり水面を不安定にしてしまいます。
以上を踏まえて、次の通りにやってみましょう。
溶融池が安定するイメージ方法
まず洗面器に7割程の水を張ります。次に洗面器の水面めがけて最大流量のシャワーを水面から約30㎝の距離へと徐々に近づけます。すると当然水は溢れるのですが、静かな音を立てながら溢れるようにシャワーの角度、距離、流量を調整します。
以上で第一段階はクリアです。
引き続き、静かな音を立てながら溢れる水面を見てると、水面がグルグルと回っているのが分かります。
この状態が流動性を一定に保つことであり、溶融池が安定している状態と非常に似ています。
一方これとは逆に、水面がバシャバシャと音を立てて水が溢れている状態は、水が一定の方向には動いておらず、とても安定している状態とは言えません。これは溶融池が不安定な状態と同じことです。
アーク溶接では数千度の溶接熱で溶けた金属が溶融池の後方へ流れ、冷えて固体となることを繰り返しています。トーチの角度や電極の距離が僅かに変わるだけで溶融池の状態が変化するため、洗面器とシャワーで水面の流れを観察すると溶融池の状態の変化が非常にイメージしやすくなると思います。
さいごに
ここまで溶融池の安定性のイメージ方法をお伝えしてきました。
今回紹介した他に、洗車する際のバケツとホースや、洗面器とドライヤー(感電には要注意です)でも同じことが出来ると思います。
サラサラの水とドロドロに溶けた金属。粘性は違いますが同じ液体であることに変わりはありません。
溶接時において液体状の溶融池をいかにスムーズに運ぶかがビードの良し悪しを決定付けるので、溶融池の安定性は品質の向上において欠かせないポイントです。
今回の記事が溶接作業において、溶融池が安定した状態か不安定な状態かを判断する一つのきっかけになればと思いまとめさせていただきました。
ではでは、より良い溶接ライフを!
*1:被覆アーク溶接では溶接棒、半自動溶接ではワイヤ、Tig溶接ではタングステン電極の事を指します