狭い工場内で鋼材相手にバタバタと仕事をこなしていると、ハンマーやらグラインダーやらマクロス歌姫ライブにも引けを取らない大音響の中、溶接で使用する保護マスクをしたまま怒鳴ってる先輩職人が何を言っているのか全く訳がわからないので、誰か助けてという話です。
怒鳴りたい気持ちはわかるんですけどね。
若手にあれほど天井クレーンで吊るときは、一旦浮かせてバランスを確認してから走行するように教えているのに、吊り荷が傾いたまま走行して今にも荷崩れしそうな不安定な状態で走行を始めるもんだから、厳しく指導しなければならないんです。
ただ…
『ンゴンゴ💢
ンゴンゴア、ンガウガン ンゴゴンガガァ!』
え、何だって?
保護マスクしたまま怒鳴ってるもんだから、何を言ってるのか全くわからない。
『ンゴンゴ💢
ンゴンゴア、ンガウガン ンゴゴンガガァ!』
は?
あり得なくないですか?
他の人がマスクしながら喋ってるときはさんざん何言ってるなかわからんとぼやいていたのに、自分が喋る時はマスクしたまま怒鳴るって。
怒鳴られている方も怒られているのはわかってるようだが、中身については何を言われてるのか全くわからないようで、大ベテランの先輩相手に「ちょっと何言ってるかわかんないですけど」などと突っ込むなんて事はあるわけもなく、頷くだけで精一杯。
工場内は音の反響が大きく、普段の会話より大きな声でゆっくりしゃべらならければならくて、お互いが向き合うより隣に立って会話する事の方が多いです。正面に立つのは極力避けてます。だって正面の人に大きな声で喋られると、口の臭いをダイレクトに浴びるし浴びせるから…、特に夕方はみんなヤベーよ。
あっ!!?
「もしかしたらマスクを外さないのではなく、マスクを外せなかったんじゃないのか…? そうか!そういうことか。待ってろよ、真犯人。一見不可能に見える完全犯罪のこのトリックを俺が必ず暴いてみせる!じっちゃんの名にかけて!!」
と鮮やかに事件を解決してくれる名探偵がいればいいのに。
普通に会話するときはマスク外して喋るのに、怒鳴るときだけマスクしたままなんだよね。
何でだろう?
極めつけはトイレでの両サイドから、年配職人二人に挟まれた状態での、マスクしたまま口撃。
用を足している私の右側からは
『オ~ンガウ~。ンマゴンゴア、オイエンガウガンンゴゴンガウ』
左側からは
「オウイエガ~。ガンゴウガッカンガエ。ゴンゴウゾーガ」
か、会話が成立しているだと?
あ、ありえねぇ。
何かの念能力なのか?
少年ジャンプで子供の頃に読んで好きになった、アウターゾーンの世界に引きずり込まれたのか?ミザリィに会えるのか?
お、落ち着け。ここはれっきとした3次元の現実世界。会話とは相手に言葉が通じて初めて成立するもの。
…なのに、
会話が成立しているだと?
マスクしたままンゴンゴ喋ってる二人の年配職人は、なんだか楽しそうである。二人に挟まってる私は白目のまま。
常識って何だろう…
トイレの窓からは青く澄んだ冬の空が見えるのに、全く持って訳が分からないよ。
おわり