Project-Tig

右手にトーチ 左手に期待値を

献血物語 ~16回目~

 昼食後、目的地をピアドゥにセットしてウォークモードにして家を出た。

 

5月のGWにしては暑すぎる。

 

 助手席にスマホと財布を放り投げて車を出した。これで運転中にスマホを見る必要もなく経験値を稼ぐ事が出来る。クエスト第五章もいよいよ終盤になり、ラスボスであるゾーマとの戦闘を残すのみとなった。

 

 目指すピアドゥは八戸のショッピングモールで、今日は午後から献血バスが来ている。

 

 エアコンを最大にしながら運転し、いつもより空いている駐車場に着いたのは13時35分。もう少しゆっくり来ても良かったかもしれない。献血開始から5分や10分遅れで並ぼうとすると既にいっぱいで、30分間待ちも珍しいことではなかった。

 

 見ると、座っているのは二人だけだ。

 

 どうやら待ち時間は少なくて済みそうだ。例え混んでいたとしても、新型コロナの影響でフードコートはガラガラだし、くまざわ書店は開いている。まだ未買の「掟上今日子シリーズ」を片手にアイス珈琲の選択もあったが、それは杞憂に終わりそうだ。

 

 並んで座っているのは、母親と高校生くらいの親子のようだ。本来ならば新しい学級で新しいクラスメートと学校生活のはずが、まだ何も始まってはいない。

 

 丁度受付が始まったらしく母親は血圧測定へ。息子は献血スタッフと高校生にしては落ち着いた口調で話をしている。

 

 高校生が「初めてなんです」と受け答えたのを機に、内心『あれ、今回も?』と僕。

自分で今回も?と思ったところで、そういえばと気付いたのだが、献血バスに来る度、毎回決まって前後どちらかの人が初めての献血者なのである。

 

 震災後にあることがきっかけで献血を始めるようになり、八戸の献血センターに通っていた。しかし、老朽化の理由で八戸献血センターが閉鎖し、献血バスを利用するようになったが、初回の献血バスを除いては、僕の隣に来る人は100%初めての献血者(全て男性)だった。

 

自分の血液型を知りたい高校生。

 

仲間と訪れて、自分だけ未経験なんスよ、と隆々とした腕にタトゥーをしている19歳の男性。

 

「ワタシにも献血デキマスカ?」と流暢な日本語のカナダ人。

 

 色んな人が来るもんだなと思うよりも前に、全てにおいて、献血スタッフの人達の受け答えが、丁寧で相手のことをおもんばかった対応に心底ほっとした。

 

 長年、工場内で無機質な鋼材を相手に溶接している職業からみれば、人と対面しながら職務をこなす人々にはある種の尊敬がある。ましてやこんな時期でも、嫌な顔一つせずに自分の職務を全うすることがどれだけ大変なことか、僕には想像出来ない。

 

 僕に出来ることと言えば、しっかりとマスクを着けて、しっかりと手を消毒し、黙って献血をするくらいかもしれない。

八戸で献血バス