『溶接のコツ』の裏と表
『溶接のコツ』と聞くと真っ先に思い浮かぶのが上手くいく方法ですよね。
運棒方法やトーチの運び方、電流の調整や姿勢などなど、上手い人達を参考にして自身の溶接上達に繋げます。
しかし、物事の成否は表裏一体。
成功の陰には必ず失敗があります。
この記事では溶接の失敗に目を向けることで、今まで気が付かなかった上手に失敗する方法を身に付けて、溶接の上達に繋げることを目的とします。
溶接を上手く失敗するための2STEP
STEP1 まずは消去法を覚えよう!
例えば、Tig溶接で板厚6㎜のステンレス鋼すみ肉溶接を行う場合、
- 電流…145A
- ノズルの径…NO.6
- タングステンの長さ…3㎜
のようにセッティングしたとします。
溶接1回目、、、NG!
では次に、タングステンの長さを4㎜にします。
溶接2回目、、、NG!
今度は1回目と2回目の間をとってタングステンの長さを3.5㎜にします。
溶接3回目、、、NG!
今度は電流を150Aにします。
溶接4回目、、、NG!
今度はタングステンの角度を45°に…
このように、これも違うあれも違う、といった方法を何度も続けた結果、
溶接15回目、、、OK!
になりました。
ここまでを一旦まとめると
- 1回目~14回目は失敗
- 15回目に成功
ということになります。
この一連の流れを消去法と呼びます。溶接技術のみならず、あらゆる分野で通じるものですね。
消去法から見えてくるもの
今回の場合、一方では、
「成功するのに15回もかかり、その前の14回は無駄な時間で遠回りした」といった捉え方ができると思います。もう一方では、成功する方法を1回見つけた。そして失敗する方法も14個見つけたという捉え方ができるわけです。
この失敗する方法を14個見つけたということが今回のポイントです。
失敗する方法が大切
溶接レベルが高い人ほど「失敗する方法」を数えきれないほどたくさん持っています。
それが自身の引き出しとなり、あらゆる状況での対応を可能にします。
「たまたま失敗する」は無い
以前、楽天イーグルス名誉監督の野村克也氏(ノムさん)が市内で開催された講演会でこんなことを話していました。
勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし
【勝負は時の運、とはいえ一つだけはっきり言えることがある。偶然に勝つことはあっても、偶然に負けることはない。失敗の裏には必ず落ち度があるはずなのだ】
溶接に置き換えると偶然に上手くいったはあるが偶然に失敗することはない
溶接の世界ではちょっとした失敗が完成を大きく左右する場合があります。失敗した原因にこそ目を向け、理解し準備をすることが次へのステップです。先手を打った準備と努力を繰り返せば 、危機的状況を察知するカンも磨かれます。
冒頭で挙げた例では電流、ノズル、タングステンの3つ要素だけでした。
これに、溶接棒の径、溶接姿勢や溶接スピード、それに鋼材の種類やノズルの角度などなど、様々な要素が加わり、微調整を繰り返すとなるとそのパターン数は軽く1000通りを越え、膨大な数になります。
電流150Aでどうだろうか?=計画
↓
実際に溶接する=行動
↓
溶接の結果=評価
↓
次はどうするか=改善
を、繰り返し試した結果が、血となり肉となり、長い年月を経て熟成された職人へとなるわけです。この進め方をPDCAサイクルと呼びます。
STEP2 PDCAサイクルの徹底
ビジネス関連の本には度々登場する用語です。
Plan=計画
Do =行動
Check=評価
Act=改善
の4つの頭文字でPDCAサイクルと呼ばれます。P➪D➪C➪A➪P…といった具合に、4つの段階を繰り返し行うことで、仕事の改善、効率化を進めることが可能です。
さいごに
- 1.消去法
- 2.PDCAサイクル
『またダメか~~』
何度も悩んでは試して、悩んでは試しての繰り返し。ただ…
無駄な努力なんて無いんですよ
試行錯誤し続ける限り、一見立ち止まっているように見えても、過去の自分よりは確実に前進しているんです。
偉い学者さんもこう言ってました。700回失敗したのではなく、700回上手くいかなかった方法を見つけたんだってね。
この記事を書いている私も、溶接、ブログともにPDCA真っ最中です。しかし…、目的を持ってトライした時の失敗は決して無駄にはなりません。
上手く溶接するコツも大切ですが、失敗する方法にも目を向けてみてください。
ではでは、より良い溶接ライフを!