Project-Tig

右手にトーチ 左手に期待値を

44歳で技術を受け継ぎレベル上げしたらお別れの話

ども、造船所でステンレス鋼や軟鋼を相手に溶接三昧のSSめたるです。

溶接は、アーク、半自動、ティグの一通りをこなし、近年ではアルミの溶接を覚える機会に恵まれるも自身の至らなさを知り、俺の溶接スキルってまだまだなのね、と打ちのめされる日々です。

22歳でこの業界に飛び込んで、20年以上経ち、現在44歳。

アルミの溶接に続いて、まさか新年早々今までとは異なるニュータイプのスキルを身に付ける事になるとは思いませんでした。

ニュータイプスキル。その名も
【ヒズミトリ】

昔から継承されてる技術なのでニュータイプではなくオールドタイプかな。
漢字だと【歪み取り】になります。
転スラ風に表現するなら、ユニークスキルの分類になるのかも。

ステンレスや軟鋼を溶接すると、溶接熱で中心部は5000℃にも達し一旦膨張します。溶接熱が冷えると今度は収縮し始め、一定の方向に曲がってしまいます。

溶接歪み取り


今回の溶接歪みは、こんな感じ⇩
(コタツのテーブルぐらい)


歪み取り3

一枚のステンレス鉄板が、溶接によりコンタクトレンズのようにベッコリしてしまったのを元に戻すための作業で、直せる人が直すとスパッと真っ直ぐに戻るからあら不思議。

今回は溶接部分とは反対側にガスバーナーで加熱すると同時に水をかけなから冷却し、狙った方向に鉄板を戻す作業になります。

溶接歪み取り曲がり取り



作業の大まかな流れは、始めにステンレスの鉄板の凹みを直してから骨部分を直す流れ。


専門職の方(自分より10歳ほど歳下)から手取り足取りの手解きを受けつつの半日間で、ひと面だけなら何とかなりました。

が、

多面になった途端、ドラクエで言うところの闇の衣を纏ったゾーマを相手にしてるようで、まあまあの無理ゲー。

溶接歪み取り曲がり取り


テトリスのブロック!
いち面が1m×1mくらいで、最長8mほど。種類はまだまだあります。

加熱量、加熱場所、順番など、ヘタに熱を加えると全体が捻れてしまい、製品として使い物にならなくなります。もちろん再製作するわけには行きませんので、失敗は許されません。

半日の技術指導を受けたところで上手くいく訳もなく、手詰まり状態になったので再びヘルプボタンをポチ。

後日、またもや本職の方(今度は10歳ほど上の超ベテラン)を本社から呼び寄せて手解きを。忙しい時にホント感謝です。


おや?

やり方が違う...


そこから始めて次にそこか~。

え?そんなにテンポ良く行くの?速っ!

炙る量はそんなに弱くていいのね。

うわ!ベコベコの鉄板がグネグネしながら真っ直ぐになってく...おもろー。


グネグネ...


スパっ!と真っ直ぐになった鉄板にゾクゾクしながら、丸一日弟子入りしたのでした。


、、、カッケー、、、


自分に出来ないことを簡単にやって見せる人ってカッコイイんです。

「始めにステンレスの鉄板の凹みを直してから骨部分(メッキFB)を直す。」
文章にすると恐ろしく簡単ですが、たった2行の文章を実現するためには、言わずもがな、かなりの技量が必要です。

ただ、丸一日ご指導いただいたこの方は技術はもちろんの事、この製品がどの場所にどのように設置され、必要とされる精度も把握しているので、今の段階ではここまでやればいいという判断が速いんですよね。

ここまでやれば、あとは現場で設置箇所を溶接し、応力が逃げない状況で再び曲がり取りすればトータルで見て仕事が短縮される。

この判断が瞬時に出来る人は、この業界で仕事の出来る人の共通点です。

最後に

広い造船所内にて普段は自分の工場でしか作業しませんので、久しぶりに The職人 と出会った貴重な体験でした。

しかし、造る船は決まっても、ピークの半分にまで減った人材不足で、あっちこっちから悲鳴が聞こえてくる現状です。
更には今もなお辞めていく職人達もいるそうで、どうにもなりませんね。

「俺も来月いっぱいで辞めるよ。あと1人もね」

「・・・」

曲がり取りのプロ居なくなるけど、この造船所大丈夫?




♬レベルアッーーープ!!!

SSめたるはユニークスキル【歪み取り】を習得。
ウラ水効果による熱影響部修正が容易になり、対ステンレス板、対軟鋼板への歪み取り抵抗値が激減。
線上加熱火口を手に入れた。