造船所あるある
造船所あるあるの一つに、ヘルメットしていないと、
『この人誰だっけ…?』
なんてことがあるんです。
ヘルメット、ヤッケや溶接用頭巾、サングラス、マスクを着けると顔が殆ど隠れてしまう。
一方、夜の飲み会では、何も着けてない素顔(?)なもんだから、さあ大変。
同じ会社の同僚は大丈夫なんですが、他の会社の職人さん達は誰が誰だかわからない。
『こんな髪型だったんだ…』とか、『以外に目がクリクリしてる』とか。
ホントのふしぎ発見!
さらには顔を見ても名前がピンとこない。
何で他の会社の職人さん達も一緒なのかって?
造船の忘年会は少なく数えても800人程(多分それ以上)参加していて、毎年ホテルを貸し切って行われます。
参加費はタダ。
何カ所かの大ホールに分かれて、長テーブルがずらりと並ぶ席で食事しながら、お好みの酒を酌み交わすんです。
今年もケガや事故が無く、無事に仕事ができて良かった。
と、ホッとしながらね。
かなりの大人数なので、相手の名前がわからなくても会話が弾むという不思議な事が。
あ、相手は自分の事がわかってるっぽい。
私が名前を覚えられないだけなのかもね。
いっそのこと、今後の忘年会はヘルメット着用にすれば、お互いに分かりやすくなるんじゃね?
無事故つながりで…
結構前の話なんですが、仕事中に大怪我をした作業員がいました。
彼とは会社は違います。
同じ造船所の敷地内の工場で、数年働く彼とは、すれ違いざまに些細な会話を交わす程度の顔見知りでした。
話してみると、受け答えにユーモアが溢れ、誰からも好かれるような年下の好青年。
趣味や家族の話で、奥さんと子供がいる、といった私と同じ環境に、少なからず親近感を抱いていたんです。
…そんな彼にある災難が降りかかります。
・・・それは、
作業中、機械に手を巻き込まれるといった、非常にショッキングな出来事。
ええ、労災です。
鳴り響く救急車のサイレンに、最初は何が起きたかわかりませんでした。
次第に明らかになる状況に、我々はもちろん、周囲の職場全体に動揺が走りました。
同じ職場の仲間が大怪我をしたという事実は、決して気持ちが良いものではありません。
なんというか、胃のあたりがムカムカして気持ち悪くなる。
被災した本人の事を思うと、
- 労災補償が基本給の8割しかもらえない
- 身体が元の元気な姿に戻るのかわからない
- 家族に多大な心配をかけてしまう
- 職場復帰の時期がわからない
とかで、何一つとして良いことは無いんです。
『何故こんなことになったんだ』
と、激しい憤りを覚えたほどです。
数か月後に、彼は職場復帰を果たしました。
数か月後の職場復帰って絶対に気を使いますよね。
「やっと働ける!」
ってのと、
「職場に行きづらい!」
ってなくらい、複雑な感情になると思うんです。
なもんで、ホントは朝一に声を掛けたかった。
しかし、そこまでの仲でもないから遠慮したんですよ。
遠目に彼を見かけた時は明るく元気そうな表情だったので少し安心しました。
少ししてトイレで彼とバッタリ。
数か月ぶりに交わす会話は、
「心配したよ。お帰り!」
と、私。
「心配をおかけしてすみません。
もう大丈夫です」
と、はにかむ彼。
同じ親であり夫でもあり、同じ職場、何より同じ職人として、復帰できたことを心から良かったと実感した瞬間です。
良かった!
ホントに良かった!
「お帰り!」
ところで…、
「名前何だっけ?」