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右手にトーチ 左手に期待値を

溶接でがん?老後は大丈夫?目を焼く以外に気を付けてほしい慢性的な溶接焼け

溶接10,000時間を超えるSSめたるです。

 

職場にアラシックスの職人さん達が数人いるのですが、若い頃の紫外線の影響か、それとも肝臓のダメージなのか。不健康そうな肌の黒さが気になります。

溶接あるあるでお馴染みの『溶接で目を焼く(電気性眼炎)』の経験者が50%以上もいる溶接業界で、『溶接で皮膚を焼く』となるとイマイチ認知度が低いせいか、一時的な火傷だから軟膏塗っとけばいいか、ぐらいで済ませてしまう人も多いのではないでしょうか。

しかし、強力なアーク光を至近距離で何度も浴びていると皮膚のシミだけではなく、最悪の場合には皮膚がんになる可能性もあるようです。

 

どっちにしても体に良いことは無いわけで、これからも長く好きな溶接作業をするこちらとしては、自身の将来が心配になるわけです。

 

というわけで、今回は慢性的な溶接焼けについて少し掘り下げてみようと思います。

アーク溶接は強力な紫外線を発生します

溶接で発生するアーク光には、目に見える青色光と目に見えない紫外線や赤外線があり、中でも紫外線のUV-Cは特に危険です。

太陽光からの紫外線UV-Cはオゾン層で遮断されるので地上に届きませんが、アーク溶接で発生する紫外線UV-Cが様々な健康障害を引き起こします。紫外線環境保健マニュアル2015より 

例えば、

アークから50㎝離れた皮膚が、アーク光を数秒間暴露*1しただけで炎症を起こします。長時間継続すると火傷や水ぶくれの症状が発生します。

裸眼でアーク光を見た場合は電気性眼炎に。繰り返されれば視力の低下や白内障の原因に繋がります。

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溶接焼けしやすい部位

皮膚で溶接焼けしやすい部位は?と聞いて真っ先に思い当たるのはです。

ちょっとくらいと思って溶接面をせずに仮付けしてると、頬あたりが真っ赤になります。

 

続いて皮手袋と袖の隙間から見える手首

左手を使うティグ溶接では、マジック式皮手袋の閉め忘れで手首の溶接焼けを起こします。

 

そして、しゃがんだ時に安全靴と裾の隙間から見える脛(スネ)

夏の暑い季節は作業着の下は素肌なので、足元の溶接を繰り返すうちにウッカリ脛を焼いてしまいます。半自動溶接のビギナーに多い溶接焼けです。

溶接ビギナーは気を付けて

2017年皮膚がんの統計

強烈な紫外線や赤外線、さらには青色光を発生するアーク光。長い年月の末に最悪の場合は皮膚がんを発症する可能性があるといわれています。

溶接焼けが慢性化するとどのくらいの確率で皮膚がんになるのかはさておき、まずは日本人がどのくらい皮膚がんになるのか見てみましょう。 

  • 2017年にがんで死亡した人は373,334人。
    (男性220,398人、女性152,936人)
  • 内、皮膚がんで死亡した人は1,583人。
    (男性797人、女性786人)

最新がん統計:[国立がん研究センター がん登録・統計]

皮膚がんで死亡した人は、がん全体の0.4%程度ですね。 

溶接やけで皮膚がんになった人は?

さて、ここからが肝心なところですが、皮膚がんで死亡した人の中で、溶接焼けで皮膚がんを発症した人は何人いるのでしょうか?

他に,溶接アークの紫外放射によって引き起こされる可能性のある障害として,白内障,皮膚癌,皮膚の老化がある。ただし,これらの遅発性障害が,アーク溶接と関連して発生しているとする報告はない。

引用元:JWES 接合・溶接技術Q&A1000より

2004年の報告なのでデータとしては古すぎますが、おそらくこの先も『溶接アーク光を長期間にわたって浴び続けたのが原因で皮膚がんになった』という報告は出てこないと思います。

 

溶接焼けで皮膚がんになったと証明できるのか?

溶接作業による健康障害の事例を検索した中で、溶接アーク光による皮膚がんの報告は国内では無いというのを見つけました。

 

考えてみると、これって当たり前なんですよね。

 

仮に将来、私が30年の溶接作業が原因で皮膚がんになったとしても、溶接アーク光を今までにどの程度の量を直接皮膚に浴びていたのか立証することはできません。

『溶接作業で皮膚がんになった』

という直接的な因果関係を証明するのは難しいでしょう。

白内障もしかり。

 

じん肺も同じように、発生する溶接ヒュームの量と工場内の換気状況を細かく記録している人が、はたしているでしょうか? 

 

会社側は保護具をするよう職場で指導していても、ちょっとした煩わしさで溶接面や保護マスクをしない行為が、将来の健康リスクを高める可能性があると思うんです。

 

そこまで気を使うの?

といった意見もあるでしょうけど、健康リスクをより具体的に想定すことが回避へと繋がり、少しでも好きな仕事を長く続けられるのではないでしょうか。

 

19世紀後半にアーク溶接が実用化され、日本では20世紀始めに使われ始めました。  

100年ちょいのアーク溶接の歴史の中、日本の高度経済成長を支えた裏で、アーク光や溶接ヒュームが多くの溶接作業者の健康を脅かしてきたのは間違いない事です。 

 

泣きを見るのはいつも溶接作業者。

 

数多くの健康被害を礎に、現在においては安全管理体制が整いつつあるも、工事の建前と本音にはまだまだ温度差があります。

元請け業者や管理者だけに任せておくのではなく、溶接作業者一人ひとりにこの温度差を埋める役割があると思うんです。

 

まずは、 
自身の健康安全は自分で守ること。

後から「皮膚がんになるって聞いてないよ~」と言っても遅い。

これが私達の溶接業界における、働き方改革の本質なのかもしれません。

 

溶接経験10,000時間を超える経験をもとに、今後の溶接時代を築いていく数十万人の溶接作業者の皆さんに向けて、健康的な溶接職人を目指すを書いていくので、是非とも目を通してくださいね。

 

アーク光は、

直接見ない浴びない !

ヒュームは吸わない!

 

ではでは、健康的な溶接ライフを! 

 

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*1:覆いも無く露天にさらされること