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右手にトーチ 左手に期待値を

令和3年溶接現場のココが変わる【「溶接ヒューム」が特別化学物質として規制】

ども、造船所勤務17年目を迎えたSSめたるです。

 コロナウイルスの影響で世界中に緊張感が走り、どんよりと重い雰囲気になってますね。

 こちら八戸でも感染者がポツポツと出始めている状況で、3月から開催される予定だった八戸名物の舘鼻岸壁朝市や、4月末に予定日されていた八戸公園の桜祭りのイベント等が中止となってます。残念、、、

 

さて気持ちを切り替えてここからが本題です。

 溶接業界では厚労省発表のもと、2020年(令和2年)4月~5月に新しい政令が公布されることになります。

www.mhlw.go.jp

 この度、「溶接ヒューム」が特定化学物質として規制され、政令の施行は令和3年の4月1日を予定してるそうです。

 

 溶接ヒュームが特定化学物質として規制される

 

はい、よくわかりません!

 

そもそも溶接ヒュームって?
どんだけ体に悪いの?
特定化学物質として規制?

 

ちょっと何を言ってるのかわからないと疑問に思ってる方のために、ざっくりとゆる~く説明していきますね。

溶接ヒュームを特別化学物質として規制

溶接ヒュームの有害性 

  まずは溶接ヒュームの有害性についてのおさらいから。

 溶接ヒュームは金属を溶接した際に出る白い煙のことで、このヒュームが体に悪いよ。マスクしましょう。換気しましょう。と、今までに何度も当ブログで取り上げてきました。

 では、具体的に何が悪いのでしょうか?厚労省のHPを確認してみると、

溶接工が訴えた神経機能作用の症状としては、震え(tremors, 41.9%)、感覚障害(numbness, 60.5%)、著しい疲労感、(excessive fatigue, 65.1%)、不眠(sleep disturbance,79.1%)、性不能(sexual dysfunction, 58.1%)、幻覚(toxic hallucinations, 18.6%)、うつ(depression, 53.5%)、不安(anxiety, 39.5%)が上げられている。このうち、性不能(p<0.05)、疲労(p<0.05)、うつ(p<0.01)、頭痛(p<0.05)については、累積ばく露指標(CEI)と統計上有意な関連があった

1 資料2-1 マンガン及びその化合物(塩基性酸化マンガンを含む)による健康影響に関する文献PDF

 

 上記に「ばく露」と出てきてますが 何もない、裸の状態 という意味なので、これは防塵マスクなしの状態ということになります。

 マスクなしであのヒューム吸ってたら、そりゃタチの悪い二日酔いより具合悪くもなりますよ。

 そしてこれが長期間にわたって慢性的な状態が続くと、「じん肺」や「肺がん」へのリスクが一気に高まるということです。 

 溶接ヒュームはジワジワと体に悪影響を与え、防塵マスク無しでの作業は決して健康的ではありません。

 

一方こちらは「じん肺」のデータ。

アーク溶接作業のヒューム対策‐中央労働災害防止協会PDF

2015年に「じん肺」の診断を受けた受診者数と、「じん肺」と診断された有所見者数、さらに有所見率まで記載されているので、非常に興味深く参考になるデータです。

今までは「粉じん作業」扱い

 溶接ヒュームが発生するアーク溶接作業は、今まで「粉じん作業」に分類されていました。

粉じん作業と呼ばれる代表的なものには、

  • トンネル坑内での破砕作業
  • 金属グラインダー作業
  • アーク溶接作業
  • コンクリート構造物の解体作業

等があります。

 一日程度の特別講習が義務化されてて、今まではこの「粉じん作業の特別講習」を受ければ粉じん作業が出来ますよ、というやつでした。

 それが今回の改正で、アーク溶接で発生する溶接ヒュームには体にめっちゃ悪い「塩基性酸化マンガン」が含まれてるから、今までとは別の形で溶接士の健康を守った方がいいよね。ということになったわけです。 

 その事から「特別化学物質として規制する」に繋がったわけですね。

 

と、ここで、 

 「長い期間というけれど、じゃあ何年溶接作業すれば『じん肺』になるの?」

といった疑問が持ち上がり、ものすごく気になるところ。

 

 ここはちょっと考え進めるとわかるんですが、「じん肺」とは肺の組織が繊維化し、硬くなって弾力性を失ってしまった病気のことで、
・じん肺の初期には、ほとんど症状は無い
・初期症状は息切れ、咳、痰が増える
・症状は数年から数十年かけてゆっくり進行する

というもの。

 そして忘れてはならないのがじん肺が完治しない事。

 

「じん肺」とは溶接ヒュームが長い年月をかけて肺に蓄積され、早期発見が難しく、発見できても治らないんです。

 

これに対して「何年溶接作業すれば…」という私の問いは見当違いで、長い溶接ライフの中でどれだけ溶接ヒュームを吸わないでいることが大切かにかかってきます。

 初期には症状が出ないことから、毎年の「じん肺検診」も必須になります。

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現場単位では何が変わるのか?

今回の改正で、我々の現場作業で直接影響するのは以下の項目。

  • ①作業主任者の選任
  • ②特殊健康診断の実施
  • ③局所排気装置の設置
  • ④作業環境測定

厚労省のHPでは、これらを義務としますんでしっかりやってね。と謳っています。

 

 目新しいのは④の作業環境測定。

空気中の溶接ヒューム濃度を測定し、その結果に応じた措置の実施と必要な呼吸用保護具の使用を義務化。

 

 もうひとつ、①の作業主任者の選任ですが、二日間の技能講習を受講すれば晴れて作業主任者に。しかしながら、こちらの地域での講習会は一年に一度で、2020年5月の分はすでにパンパンのパンでキャンセル待ち状態になってます。

3 経過措置
令和4年3月31日までの間は、溶接ヒューム並びに塩基性酸化マンガンに係る業務の作業主任者を選任することを要しない。

とあるので、それまでには受講しなければなりません。

 「一般社団法人青森県労働基準協会」のHPは保護されていない通信なので、検索結果を載せておきます。 

「一般社団法人青森県労働基準協会」検索結果

最後に

 2021年(令和3年)4月から溶接ヒュームが特別化学物質として規制されることになりました。

 政令による規制はあくまでも国側が会社や企業に対して働く人の健康安全の管理をしっかりやれよ!というもので、現場で働く溶接士が指をくわえて眺めていては何も始まりません。

 サポート的な役割である法令のもと、自分の健康安全は自分で守る事が溶接作業に係る職人にとってなによりも大切です。

 それは目に見える危険な芽だけでなく、未来の自分の健康を脅かすかもしれない存在に対しても同じこと。

 

 今回の改正により「溶接ヒューム」に対する認識が深く広く理解され、ひとりでも多くの溶接士が、長い未来に渡って健康的に活躍できることを願っています。

 

ではでは、より良い溶接ライフを!

 

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